安全登山のためのレイヤリングと低体温症対策
並びにバテ防止対策
研 修 会
年月日 令和3年12月7日(日)
天 候 曇りのち晴れ
所在地 呉羽青少年自然の家と周辺
参加者 38名
記録者 I・T、I・A
一般研修会 今日は、上田幸雄氏(立山ガイド協会所属山岳ガイド、国立登山研修所 講師など)を講師に招き、 当初予定の「安全な登山のためのウェアのレイヤリング(重ね着)と低体温症対策」に加えて 「バテないようにするための体力の温存方法」をテーマとして開催し、 登山中に低体温症にならないためのレイヤリングの知識とバテない山登りの方法を学びました。
8:45 玄関ロビーにて受付開始。 体温と体調チェックを受けた後、2階研修室で 各テーブルに分かれて着席。 9:00 午前の部 研修会開始
1.レイヤリング(重ね着)と低体温症対策 (1)レイヤリング(重ね着) @レイヤリングの目的 登山中は、汗をかくことや天候や環境が変わりやすいことから、身体のコンディション変化が 大きい。 登山中の汗や雨・雪などによって身体が濡れると、身体の熱が奪われてしまい、冷えやすくなる。 特に冬場の登山には、身体の防水、防風、乾燥状態を保ちながらの温度調整が必要。 つまり、レイヤリングが重要となる。 Aレイヤリングの構成(重ね着システム) 環境や行動負荷の変化に対応して、身体を乾いた状態に保持できるよう効果的にウェアを 組み合わせること。→こまめな脱ぎ着をせずに体温調節をする。 次の4種で構成される。 ・ベースレイヤー(BL) 水蒸気を吸い上げる吸湿。汗・結露による水分を吸い上げる吸水→蒸散 ・ミッドレイヤー(ML) 温度調整、BLで蒸散された水蒸気を吸湿。雨・汗などを吸水→蒸散 ・シェルレイヤー(SL) 雨・雪・風などを防ぐ防水・防風機能。 BL、MLから蒸散した水蒸気を放出する透湿性 ・サーマルレイヤー 休憩時などの保温 ■繊維の素材による吸湿性や吸水性の違いの説明があり、レイヤリングに適した素材のウエアを 選ぶことが大切とのこと。上田講師は、BL、ML、SLとしてのウェアを、数点準備して展示 されました。 私たちは、それぞれを手に取り拝見しました。 9:40 5分間の休憩の後、研修再開 (2)低体温症対策 @低体温症とは 脳や心臓などの深部体温が35℃以下の状態(通常は37℃前後) 血液の温度が下がって、いろいろな症状が引き起こされる。 最も危険なのは、早期に意識障害を起こした場合。 A低体温症の原因 体温を調整する働きの低下〜熱生産と喪失のバランスが崩れる。 <低下しやすい人>子ども、高齢者、糖尿病、神経の病気(脳梗塞、脊髄損傷など)のある人、 外傷(登山中の骨折などの怪我)のある人 B体温を奪う現象 対流:風によって体温が奪われる(体感温度)→防風対策としてシェルやテントの中へ 風速1m増す毎に体感温度が、1℃下がる。 伝導:高温側から低温側へ熱が伝わる。(熱伝導率の違いによる) →断熱層(空気の層、ダウンジャケットなどを着る) 蒸発:汗が蒸発するときに熱を奪う(気化熱) → 汗、雨、雪で濡らさない。 放射:衣類を脱いで裸になると体温が放出される。 →肌を露出させない。(手、手首、顔、首、頭を覆う) ※遭難事例→気温10℃以下、風速10m以上となると低体温症になりやすい。 C自覚症状 深部体温36℃:寒気がする。 深部体温35℃:手の細かい動きが出来ない。皮膚感覚の麻痺、震え、歩行が遅れる。 深部体温34℃:よろめく、震えが激しくなる、口ごもる、意味不明の発言、無関心、眠くなる。 ■震えがあるうちはまだ良い。この時点でレスキューを呼び判断を仰ぐ。 ■震えることもなくなったら、自力で何も出来なくなる。 ■むやみに動かさず、とにかく丁寧に扱う。 ■体温より症状が大事、見極めが肝要。 D低体温症の4つの予防と対策 ・予防→濡らさない。風を避ける。食べる。温める。 そもそも、悪天候での登山は体力の消耗が激しく、消費エネルギーも大きいことから、 好天に登山することが最大の予防。また、日頃からのトレーニング、エネルギー補給、 水分・塩分補給なども予防のために重要。 ・対策→体温回復に努める。 隔離:風雨雪を避ける。濡れた衣類を着替える。 保温:熱源のないもの(乾いた衣類・寝袋・帽子・手袋を着用) 加温:熱源のあるもの(カイロ・湯たんぽを体幹、股間、脇、頸動脈に当てる。 手足は温めない。(心臓へ暖かい血液が、流れるとショックが起こることもある) エネルギーと水分を摂取する。むせたら禁止。 温かく甘い飲み物、食べることが出来るもの。 ■低体温症は冬以外にもなり得る。 春:浅い時期には、冬のような天気、雪渓での道迷い 夏:悪天候、沢登り 秋:早い冬の訪れ 高山では春、夏期でも十分ありうるので、天候を過小評価しない。 10:30 5分間の休憩の後、研修再開 2.バテ防止対策 (1)バテの原因 体調不良、睡眠不足は、バテる原因につながる。バテが原因で、転倒しやすくなる。 ※疲労の原因は、基礎体力が弱い、歩行技術が稚拙、無理な速さで歩く、 エネルギー不足(朝食抜き)、環境の影響(天候)など (2)登山は、通常歩行と異なる。 登山は、荷物を背負う、坂道を登り下りする、不整地面を長時間歩く ※一定水準の筋力や持久力が必要となる。 (3)普段から心拍数を上げるトレーニングが大事。 ※登山中の心拍数120 > 平地ウオーキングの心拍数100 (4)疲労と対策 @疲労の種類 ・登りで起こる疲労 運動強度が大きくなると筋肉内に乳酸が発生し、筋肉疲労の原因となる。 ■防止策→最高心拍数の75%の状態が良い 最高心拍数= 208−(0.7×年齢) 例)年齢が70歳なら、最高心拍数は 159となり75%である119程度の心拍数の状態が良い。 ・下りで起こる疲労 脚の筋が引き伸ばされ(伸張性収縮)、細胞が損傷し筋力や筋肉痛の原因となる。 また、段差により着地衝撃力を受け、筋を疲労させる。 ■防止策→歩幅を小さくする。ストックを使う。脚筋力トレーニング(スクワットなど)をする。 ・エネルギー・水分不足による疲労 他のスポーツに比べて運動時間が長いのでエネルギー消費量、脱水量が多くなる。 ・暑さ・寒さによる疲労 体温上昇・低下は熱中症や低体温症を引き起こす。 ・低酸素による疲労 高度が上昇するほど酸素の量が低下するので疲労しやすい。※標高2000mを超えると注意! ■防止策→「行動適応」が必要、体力の優劣よりも「行動適応」の良し悪しが重要。 『行動適応とは?』 【暑い時は水分補給する。歩くスピードを落とす。休憩を多くとる。】 【寒い時は濡れを防ぎ、エネルギー補給に気を配る。意識的な呼吸をする。】など A疲労予防対策 ・エネルギーと水分補給をする エネルギー消費量(Kcal)=体重(Kg)×行動時間(h)×5 脱水量(ml) =体重(Kg)×行動時間(h)×5 例)体重60Kgの人が8H歩けば、60(s)×8(h)×5=2400 2400Kcalのエネルギーが、消費され2400mlの水分補給が必要となる。 ・体力トレーニングを積む 山登りのため、現時点で足りない身体能力を改善する。 事前の机上トレーニング →→目標とする登山コースでの負荷の種類や程度を具体的な数値で可視化し、 これを改善するためのトレーニング計画を立てる。 実際のトレーニング(ランニングで心肺機能のアップをさせながら筋力トレを複合させる) →→脚筋力(スクワット)、体幹(腹筋、背筋) 事後の机上トレーニング→→振り返り、改善する。 ■トレーニングは、目的意識を持ってやる。 3.その他 上田講師による安全登山のための参考図書の紹介 『高等学校登山指導者用テキスト』」〜安全で楽しい登山を目指して〜 デジタルブック版がネットで見られます。 詳しくは 「国立登山研修所」のホームページ参照 11:55 午前の研修、終了 12:15 玄関南テラスで昼食 焼きそば、ピザ、各担当者が腕を振るう。りんご、おでん、ノンアルコールの差しいれ、 有り難うございました。
13:07 午後の部 研修開始 1階玄関ロビーにて班ごとに集まり、リュックの中の持ち物(装備品)をリストと照合してチェックする。 13:25 玄関前で集合写真を写す。 13:30 上田幸雄氏より、読図とCP(チェックポイント)の説明を受け、呉羽青少年自然の家をスタート。 ファミリーパークフェンスとの境界を通る。 CP:送電線、鉄塔を確認して地蔵堂前を通り、整備された青竹の森を歩く。 さらに地図と周囲の看板を確認しながら呉羽トンネルの上を通過する。 13:50 階段の上り下りが続く。 14:00 御鷹台広場に到着。散策路と哺乳動物の看板有り。 集合写真を撮る。 14:30 塚山古墳横を通過する。 15:00 散策路より車道に降りて、古沢神社前を通る。 15:10 県道富山高岡線の地下道を通り抜けて、ファミリーパークの森、 自然体験センター、ガラス工房裏を通り、左に小さな用水があり、渡る。 15:40 呉羽青少年自然の家に到着し、解散となる。 新型コロナウイルスの影響で2年続けて忘年会が中止になりましたが、今回このような懇親会が出来た事は 大変良かったと思います。 |